「バイト代で、母にステーキランチを。」
その日、いつものようにソファでグダグダしてたら、
長男がふいに聞いてきた。
「なんか食べたいもんある?」
ん?急にどうした?
と一瞬警戒する母に、彼は続けた。
「バイト代入ったからさ、ご飯でも行こっかなって」
……はい、泣いていいですか。
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連れてってくれたのは、
近所のちょっとだけいいお店のランチ。
ステーキランチ、1,000円。
母、遠慮しようか一瞬迷ったけど……
「じゃあ、ありがたく」って言って頼んだ。
だって、嬉しすぎて、断るなんて無理だった。
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中学生の頃は、
学校に行けず、毎日バトル。
思春期の壁+特性で、何度も泣いたし、怒鳴ったし、ぶつかった。
正直、「この子の将来どうなるんだろう」って夜中に泣いたこともあった。
でもこの日――
目の前の彼は、自分で働いたお金で、
母にご飯を奢ってくれていた。
その姿に、
これまでのすべてが、少しだけ報われた気がした。
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食べながら彼が言った。
「ママ、いつもありがとうな」
「これから、ちょっとずつ返していくから」
……いや、もう今ので十分だよ。
それだけで、母はまた、頑張れる。
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