🟠長男伝説シリーズ 第10話

「成功体験より、大事なもの。」

顧問の先生が、こんなことを言ってきた。

「〇〇君には、大会に出てもらいたいんですよ」

「リレーとか駅伝とか、チームで結果を出して、成功体験をさせたいんです」

……うーん、わかる。

その気持ちは、100歩譲って理解できる。

でも、それ、息子に合ってると思ってます?

そもそも息子は、個人競技のつもりで陸上部に入った。

自分のペースで、自分の力を試したかった。

チームプレーは、相性や空気感がとても重要。

ただでさえ人間関係に敏感な息子にとって、

「一緒に走るメンバーと上手くいかない」ってだけで、気持ちは一気に冷めてしまう。

でもね、決めつけるのは良くない

そう思って私も背中を押してみたのよ

で、実際はね、やっぱりか…という展開よ

走りに集中できない。

メンバーとのちょっとした衝突。

あれこれ指し図されイライラモード

息子のやる気スイッチは、完全にオフ。

それを見て顧問がまた言う。

「チームの邪魔するな」

「雰囲気を乱すな」

「なんでお前だけ、やる気ないんだ」

……違うんだよ。

できないんじゃなくて、合わないだけ。

だから本人も言ったんだ。

「駅伝、出たくない」って。

「補助にまわりたい」って。

私もその決断を尊重した。

苦手なことを無理にやらせるより、できることで力を発揮する方がずっといい。

で、大会当日。

息子は、競技の補助員として参加。

選手の誘導、器具の準備、タイムの管理。

練習以上に、よく動いて、よく働いて、めっちゃ輝いてた。

生き生きしてた。

本当に、キラキラしてた。

私は、嬉しくてたまらなかった。

でも――

それを見た顧問の一言。

「こいつ、楽してますよー」

「練習してないんだから、そら楽しいでしょうねー。あはは」

……終わったと思った。

この人には、何も伝わっていない。

努力の形は、ひとつじゃない。

頑張る場所だって、人によって違う。

それを、“正解”を決めつけて、笑い飛ばす――

もう、限界だった。

そして追い打ちのように、中2の夏。

大会の日、会場で――

顧問が突然、部員全員の前で言い放った。

「お母さん、こいつ何もしてないですよー」

「何しに来てるんですかー??」

公開処刑。親子で、舞台のど真ん中。

私は、立ち尽くすしかなかった。

何か言いたかった。でも、声が出なかった。

笑って誤魔化すだけ

ダメな母親だ、最悪…

あのとき、はっきり思った。

もう、この環境にはいられない。

それでも、息子はその場に立ってた。

泣かずに、逃げずに、下を向いたまま立ってた。

それが、私には本当にすごいと思った。

“成功体験”って、

誰かが与えるものじゃない。

本人が感じて初めて、それは意味を持つ。

先生が思う「成功」と、

私たち親子が感じていた「達成感」は、

あまりにも違っていた。

次回予告:

🟡第11話「やめる決断、逃げじゃない。未来への第一歩。」